2012年1月25日水曜日

目で見る少女小説『The Scrapbook of Frankie Pratt』



 アメリカには個人のスクラップブックを集めているコレクターが数多く存在する。チケットの半券や押し花、髪の房、パンフレット、広告、リボンの切れ端にメモ…。そんな思い出の品々をコラージュして作られた古いスクラップブックは時代風俗と個人の関係を探るのにはいい資料であり、芸術的なものも少なくない。
 数年前に出た『Scrapbook:An American History』も面白いコレクションだった。編者が紹介している中には、ゼルダ・フィッツジェラルドのような有名人にスクラップブックもあったが、面白いのはやはり無名の人々の秘密の宝物のようなスクラップである。これは『Scrapbook』の編者、ジェシカ・ヘルランドがコレクションのひとつ、1920年代の女学生のスクラップブックを紹介しているところ。


 小説家のキャロライン・プラットも個人のスクラップブックの収集を趣味としている人間の一人だ。彼女はただ集めるだけではなく、自分のコレクション+ebayで買い足したスクラップブックをばらして使い、架空の女の子のスクラップブックまで作ってしまった! それが『The Scrapbook of Frankie Pratt : a novel in Pictures』である。スクラップブックは1920年、ニューハンプシャーの小さな町で生まれたフランシス、通称フランキーが高校の卒業祝いに母親からスクラップブックをもらい、亡くなった父親のコロナのタイプライターを見つけたところから始まる。それからの物語は全て、当時の広告やカード、記念品によるコラージュとフランキーのタイプライターのメモで進められていく。




 作家志望のフランキーはバッサー女子大に進み、ニューヨークのグリニッチビレッジに出て雑誌社に勤め、更にキューナード・ラインに乗ってパリに行くのである。大学ではOGのエドナ・ヴィンセント・ミレイに励まされ、ニューヨークではコニーアイランドや野球場でデートして、夜通しチャールストンを踊り、パリではシェークスピア&カンパニーの上階に住む。文化系女子が夢見るような20年代のガールズ・ライフがそこにはぎゅっと詰まっている。もちろん恋の話もある。ずっと付き合っていると思ったのに、途中でゲイであることが発覚するバッサー時代の同級生の兄。パリで再会する初恋の相手。そして医者になった幼なじみ。まるで「目で見る(ちょっと大人向けの)少女小説」という感じで、楽しいことこの上ない。
 それにしても凝った作りだ。当時の広告や記事、パッケージなどで構成されているページを見ると、時代考証とコレクションにどれだけの時間を費やしたのだろうと思ってくらくらする。リンドバーグの大西洋横断や1928年5月19日の皆既日食など、歴史的な出来事を織り込んであるところも面白い。何よりも、個人的な日記を見ているような、親密な雰囲気がいい。
 ヒロインの結婚で終わってしまうラストに不満がある人もいるだろうけど、スクラップ帳の最後が1928年であるところに注目して欲しい。そう、この翌年から大恐慌が始まり、女の子が個人的に夢を追いかけるような時代は終わってしまうのだ。ヒロインの娘時代と20年代の終焉がここに重なる。このスクラップブックは、女の子が自由に生きられたひとつの時代のきらめきを閉じ込めたタイム・カプセルなのである。
 
予告編


2012年1月23日月曜日

メモ


・五分で出来る(しかも材料はチョコと水だけ)、人生最高のチョコレート・ムース

・素敵な企画。文芸作品のヒロインに似合いそうな指輪

・文芸/映画/アクセサリーといえば、『メランコリア』とアンナ・カヴァンの『氷』のヒロイン、及びその二つを好む女子にはこんなジュエリーをつけて欲しい。

・この革リボンブレスレット、可愛い

サンドイッチ・アーティスト

・このノートが欲しい!

・「Shit New Yorkers Say」 本当にニューヨークの人たちはこういうこと言いそう。ブリリアント。そしてニューヨークの雑誌/新聞でやっぱりPostはちょっと格下に見られているんだな、ということを確認。 



・TONYが選ぶ映画で使用された曲ベスト50。妥当な並びでは?

・東海岸の「アクセサリーを作るプレッピー」ことKiel James Patrickのノルディック・セーター・コレクション。棚ごと欲しい!

・そのKiel James Patrickの公私にわたるパートナー、サラ嬢のブログ。このタイトル!そして超保守的なセンス!

・夫婦同士のベッド・シーンのせいで『ブルー・バレンタイン」がNC-17になったことに関するライアン・ゴスリングの抗議文。こういう立派な男優、日本にいる? 

・シアトルのデザイナー、Brian Paquetteの部屋。ジャスト好み。

・アンチ・フェミニスト・ビンゴその1 その2 日本でもツイッターやブログでこういうコメント出がち! 笑える

・恒例となったジェイソン・ライトマンの朗読劇、今回は「シャンプー」リー・グランドの役にダイアン・レイン、ゴールディー・ホーンの役にケイト・ハドソン‼キャリー・フィッシャーの役はレナ・ダンハム。そしてウォーレン・ベイティにはブラッドリー・クーパー。ベイティが見に来たんだって。

・レナ・ダンハムの「Tiny Furniture」クライテリオン版予告編。この映画、本当に楽しみにしているんです。



・大好きなイラストレーター、ダンカン・ハンナのお宅

・オールスター妊娠出産コメディ「What to Expect when you are expecting」。シュー先生とキャメロンのラテンダンスだけでも見たいです

五秒のサマー

・英国の美人姉妹バンドThe Staves。いま私がキャッチフレーズをつけました。「歌うブロンテ姉妹」です。(うち一人の名前はエミリーだし)

2012年1月17日火曜日

ティナ・フェイの『Bossypants』



 現在のアメリカにおける女性芸人の勢いはすごい。

 自分で脚本が書いて、テレビ番組や映画をプロデュースして、かつ主演をはって数字が稼げるコメディエンヌが数多くいる。

 今やみんなこの状況を当たり前のように思っているけれど、クリステン・ウィグをはじめとする女芸人たちはこう思っていることだろう。「ティナ姐さんにはとても頭が上がらない」と。

 コメディエンヌの全盛期は彼女一人で作り出したものではないかもしれないが、それでもサタデー・ナイト・ライブで女性初のヘッドライターとなったティナ・フェイはゲーム・チェンジャーだった。彼女は『ミーン・ガールズ』の脚本・出演で映画界に進出し、人気番組『30 Rock』でクリエイター兼主演を務め、エミー賞に輝いた。女芸人たちの出世コースを築いたのである。

 女芸人はもう、男性コメディアンの横でガールフレンド役で花を添えたり、「モテない女」という定型だけで笑いを取らなくてもよくなった。自分たちにふさわしい役がなかったら、自分たちで脚本を書けばいいのだ。ティナ・フェイなくして、『Bridesmaids』の成功はありえない。

 日本ではちょっと前まで「サラ・ペイリンのそっくりさん」という認識しかなかったティナ・フェイだが、フジテレビが深夜にくり返し『30 Rock』を放映したおかげで少しは認知度も上がって来た。本国ではスマッシュ・ヒットを記録したスティーブ・カレルとの主演作『デート&ナイト』は日本ではDVDスルーだったが、見たところ回転率も良さそうである。一度来日してアンジェラ・アキの物真似(数字入りの長袖Tシャツをきて「アンジェラアキデス」というだけでOK)でもしてくれれば人気も爆発するのではないか。

 で、ティナ・フェイの本『Bossypants』がペーパーバックになったので読んでみた。全米で記録的なベストセラーとなった彼女のエッセイ集である。

 基本的な作りは回顧録で、イケてなかった子供時代、イケてなかった高校時代、まるっきりモテなかった大学時代(自分に振り向いてくれない男子たちに無駄に秋波を送っていた時に培ったハートの強さは、後に低視聴率番組のプロデューサーになった時に役に立ったという)、「おびえた生徒と気のない教師からぽっと出の田舎娘と百戦錬磨のマダムへ、更に孤児アニーとワーバックス(地方巡業組)からお互いを尊敬する対等な友人同士へ、不機嫌な十代の娘と寛大な義理の父からマイケル・ジャクソン夫妻へ、少し時間が空いてクリスマスを信じない男の子と奇跡は起こるのだと彼に証明する世捨て人の隣人、それからまたお互いを尊敬する対等な友人同士になった」というプロデューサーのローン・マイケルズとの関係、SNLで学んだこと、本人は全然成功だと思っていない『30 Rock』の批評家筋への成功(彼女は通受けではなく大ヒット番組を本気で狙っていた)、サラ・ペイリン・フィーバー、子供を持つワーキング・マザーとしての自分について、彼女らしいユーモアを織り込んでチャーミングに書いてある。

 本当に読んでいて楽しかったし、色々と励まされた。そして隅々までフェミっぽいので驚いた。

「(男性中心の職場で働くことについて)“彼らに決して涙を見せてはダメ”っていう人もいるけれど、もう泣くしかないってところまで怒りがこみ上げたら、泣けって私は言うわね。みんなそれで怖がるから」

「性差別、年齢差別、容姿差別を受けても、相手が自分のやりたい事を直に邪魔する立場にいなかったら放っておくこと。相手を説得したり教育しようとしたりしない。相手が気に入らなくても知ったことではないという態度で自分の仕事をやり続ければいい」というようなことを、ティナ・フェイは読者を笑わせながらイヤミなく伝える。ティナ・フェイのアゴには傷がある。子供の頃、変質者に切りつけられて出来た傷だ。でも彼女はトラウマなんか語ったりしない。「この傷のおかげでみんなに親切にしてもらったし(腫れ物に触らなかっただけという説もあるが)、甥は女だらけの広いビーチでも私を見失わない」。彼女は気骨があるけれど、強面ではない。人好きする。誰もが友達になりたいと思う。美人で魅力的で話していて楽しいので、男性なら彼女をガールフレンドにしたいと思う。本当に得難い才能だ。

 こんな本が一冊あれば、日本の女の子たちも生きるのが楽になるのに。ティナ・フェイのような存在を欲しているのは、アメリカのコメディ界だけではないのだ。

 この本の面白いところをさらっているとキリがないが、短くて気が利いていた二本を超(適当)訳しておく。


「とても痩せていた時代を思い返す」


 世紀の変わり目の短い期間、私はとても痩せていた。その時のことで私が覚えていることといえば


・いつも寒かった

・サイズ4のコーデュロイのショートパンツを持っていた。しかも着ていた。仕事に行くのに。マンハッタンのど真ん中で。

・「あなた痩せ過ぎよ」と言われるのが得意でしょうがなかった

・ビーチにおやつとして赤唐辛子を一袋持っていた

・まずい健康食品のクッキーをいつも食べていて、それを熱心にレイチェル・ドラッチ(女芸人)に勧めたら、彼女はウサギの絵を描いて、そのウサギの尻の下にうんこに見えるように砕いた健康食品のクッキーを貼付けた

・昔から知り合いの男性たちが急に私に興味を示すようになって、それで奴らがキライになった

・骨が当たる音がうるさくて眠れないので、時折両足の間に枕を挟んで寝た

・しょっちゅう食べていないので時間を持て余した

・週に六日、ランニングマシーンで約五キロ走っていた

・全ての人に対する優越感に酔っていた

・まだ子供は産んでいなかった

 

 人に体重のことでとやかく言うべきではない。しばらくの間やせすぎでいることは(きちんと食べて、体重制限のために薬を使ったり喫煙しない限りは)最高の気晴らしである。みんな一度やってみるといい。超ショートのヘアカットや白人男とのデートを試すようなものだ。

 

「少しばかり太っていた時代を思い返す」


・前世紀の終わりにおける短い期間、体重オーバーだったことがある。その時のことで私が覚えていることといえば


・おっぱいが今よりも大きかった

・閉店前にクリスピークリームドーナッツにありつくためにデザートの途中でレストランの席を立ったことがある

・マクドナルドでフライドポテトを食べようとしただけなのに、もっと栄養があるものが必要だと思ってチーズ・バーガーも二個頼んだ

・本当にその気だったのなら、バーガーキングでワッパージュニアを食べてからマクドナルドでフライドポテトを買うべきだった。シェイクはどこで買っても良しとする

・1・5キロも走れなかった

・大型サイズの男子用のオーバーオールを持っていて、愛用していた

・昔からの知り合いの男性たちに誘われなくなって、それで奴らがキライになった

・クリスマスに少なくとも三回、チョコレート、海老のボイル、サマーソーセージ、チーズの混合物をゲロった。お酒は飲んでいなかった

・サイズ12で「これが現実の女性のサイズなのよ」と誇りを持っていた。「サイズ12は世界標準なのよ」と吹聴した。「女性誌が何と言おうとね」

・肌着にアイロンをかけている時に、突き出たお腹にもアイロンを滑らせて火傷したことがある


 人に体重のことでとやかく言うべきではない。しばらくの間ぽっちゃりでいることは(糖尿病にならない限りは)人生における自然な側面で別に恥じることではない。思春期や、知らない間に共和党派に傾いてしまうようなものだ。