2011年6月27日月曜日

女たちの時間


 この間、高円寺に行ったときに見つけた「十五時の犬」という古本屋さんは、久しぶりに心ときめくようなお店だった。天井まで張り巡らされた本棚にびっしり私好みの本が並ぶ。そこでずっと欲しいと思っていた『女たちの時間 レズビアン短編小説集』を安価で手に入れた。
 これは本当に素敵なアンソロジーだった。
 「レズビアン」という言葉で人がイメージするものは色々だが、ここで取り上げられているのは女同士の恋愛や性愛を描いた作品というよりは、もっと広い範囲での女性同士の交流、シンパシーやふとした心のつながり、友愛、思慕、様々な形の「愛」である。そして友情でも姉妹間の愛でも、それが「愛」である以上はエロティックな要素がどこかにあるものなのだ。露骨ではない、ふわりと香り立つような官能を感じるラインナップだった。選者で翻訳も務めた利根川真紀さんはこのアンソロジーを作った時、まだ三十代のはずだ。素晴らしい仕事だと思う。
 ウィラ・キャザー、ケイト・ショパン、キャサリン・マンスフィールド、ヴァージニア・ウルフ、デュナ・バーンズ、カーソン・マッカラーズ、ジェイン・ボウルズと「文学乙女の必修科目」とでも言いたいような名前が並ぶ。どの短編も傑作だったが、とりわけセアラ・オーン・ジョエットの二編に心が震えた。つつましやかな女の献身が報われる瞬間に涙せずにいられない「マーサの愛しい女主人」と、孤独と引き換えに少女が守り抜いた自由な魂を野性の鳥の姿に託した「シロサギ」。この作家の作品が(日本語で)読める本がこれしかないだなんて!
 イサク・ディーネセンの「空白のページ」がラストに置かれている、その構成も心憎いばかり。
 どこかで見かけたら絶対に買うべきアンソロジーの名作である。

営業報告


発売中の
「フィガロ・ジャポン」、カルチャー特集にて「女子力」をテーマに本を三冊選んでいます。ひとに贈りたい本の中の言葉、というコーナーでは木皿泉さんと選んだ作者がかぶってびっくり。
「シュプール」のDVDコラム、今回のテーマはビートルズ映画。
本当にいちばん大好きなビートルズ映画はロバート・ゼメキスの『抱きしめたい』です。エド・サリバン・ショーに出るビートルズになんとかして会おうとする女の子たちの話。
これ、日本ではDVDにならないのかしら。



9月23日のプランタン銀座のエコール・プランタンにて「映画に見るプレッピー」という講座をやります。申し込みの受付は
こちらから。ギンガムチェックのボタンダウンを愛する皆様、お時間がありましたら、是非いらして下さい。

2011年6月20日月曜日

営業報告



モタモタしている内に次の号が出てしまった雑誌の仕事を二冊…。
「anan」の6月15日号の「心に響く詩」という特集で、私の好きなロマンティックな詩を紹介しました。岸田衿子、寺山修司、ヴェルレーヌ等。
「Hanako」の6月9日号のカルチャー欄では日本版がいよいよスタートしたサタデー・ナイト・ライブの魅力について語りました。

ここからは書店でまだ入手出来る雑誌の仕事。
「Ginza」では「乙女IT手帖」として私のブックマークを公開。ウェブ版にも載っています。
「ケトル」の創刊号にて『アリス・クリードの失踪』についてレビューを書いています。
「FRaU」ではシャネルのココ・マドモアゼルの香水PRページにエッセイを書いています。読書日記で取り上げた本は以下の通り。
高護
『歌謡曲』
サマセット・モーム
『マウントドレイゴ卿/パーティの前に』
オラフ・オラフソン
『ヴァレンタインズ』
クラフト・エヴィング商会
『おかしな本棚』
「CDジャーナル」の「アメリカ学園天国」では『トゥエルヴ』を紹介。これと『処刑教室』『Xメン ファースト・クラス』はゾー・クラヴィッツの「悪い娘三部作ですね。『トゥエルヴ』は原作をお勧めしたい。今回で「アメリカ学園天国」は50回目を迎えました。隔月連載なので、八年ほどやっていることになります。長寿連載!

 それと先の話になりますが、9月23日のプランタン銀座のエコール・プランタンにて「映画に見るプレッピー」という講座をやります。申し込みの受付は
こちらから。ギンガムチェックのボタンダウンを愛する皆様、お時間がありましたら、是非いらして下さい。

五月後半のベスト10 その場所に女ありて

(source)



 神保町シアターの司葉子特集にて鑑賞。傑作としか言いようがない。

 好きな要素が揃いすぎていて、めまいがしそうだった。

 60年代の広告業界でハードボイルドに闘う女たち。

「MADMEN」が好きな人にもお勧めしたい。同時期の日本の広告界ということでは、「銀座界隈ドキドキの日々」も思い浮かんだ。年下の生活力がない夫(←児玉清の名演)に依存する姉と孤独な広告エージェントに勤めるキャリア女子の妹という関係性はリチャード・イエーツの「Easter parade」とも共通する。同時期の傑作『大都会の女たち』とも比べて見たい。

会社で生き抜くために男よりマッチョになる事務職の大塚道子、別れた旦那に未練たらたらの北あけみ、貢いだあげく男に捨てられる水野久美…。社内で高利貸しをしている北あけみのライバルとなる新人女子の乾いた演技が最高だったんだけど、あれ誰なんだろう。

「男ってどうして自分を作るためにしか女を必要としないんだろう!」という司葉子も、宝田明や山崎努に利用される。

「でも私は生きていかなくちゃならないし、働いていかなくちゃならないんです!」

 何て切実な叫びなんだろう。働く女性全員に見て欲しい。

「街で偶然会ったらお酒でも飲みましょう。笑い話にしてもいいわ」と気丈な優しさをみせる司葉子は本当に美しかった。バロック調の池野成のスコアも最高だ。


五月後半のベスト10 Franz Liszt/Khatia Buniatishvili


 話題の女性ピアニストのソロ・デビュー・アルバムであるリスト作品集
 完璧なジャケット。庭園で白い白鳥を連れてピアノを弾く黒いドレスの美女。この黒い衣装は黒鳥を意識しているという。日本で『ブラックスワン』大ヒットの年になんとタイムリーな。「白と黒、無垢と官能性、明るさと暗さ、メランコリックな悲観主義者と力強い楽観主義者」等の相反する要素を表現したジャケットの中身は、まるで物語のようなリスト・アルバム。ファウストをサブテキストにしていると聞いて、重厚な「ピアノ・ソナタロ短調」の前に置かれた「愛の夢」の意味も分かる気がした。暗闇をバックに、失われゆく無垢の美が輝く瞬間を託した選曲ではないだろうか。

五月後半のベスト10 The Native Trees of Canada/Leanne Shapton



 リアンヌ・シャプトンがカナダの古本屋で手に入れたカナダの木々についての書籍をもとに、豊かな色彩で木の葉を描き出したイラスト集。様々な緑のグラデーション、葡萄色、浅黄色、橙黄色、群青色、淡いピンク、珈琲色。深い森の香りと生命の息吹を感じる素晴らしい作品。押江千衣子の初期の作品にも通ずる魅力がある。リアンヌ・シャプトンは私にとって、ミランダ・ジュライの次くらいに「やることが全部面白い」大好きなアーティストである。

2011年6月18日土曜日

五月後半のベスト10/お嬢さん


角川

 角川シネマ有楽町の
三島由紀夫映画祭にて鑑賞。
 あややを想定して三島が書いたという
原作が好きで、ずうっと観たいと思っていた。柳原良平によるタイトルバックからして愛らしい。池野成のスコアも軽快で、これだけで嬉しくなってしまう。女の子らしい妄想シーンの書き割りセットも柳原かな。疑心暗鬼で妄想過多になるあややに、火に油を注ぐような耳年増の野添ひとみはいいコンビ! この二人のおしゃべりをずっと聞いていたかった。
 三島由紀夫映画祭では『にっぽん製』も観た。山本富士子はきれいだけど、相手役がなあ…。越路吹雪主演のテレビドラマ版を見てみたいなあ。それと、中村登監督の『夏子の冒険』はどうしてかからなかったのだろう。フィルムがないとか!? そんな!

五月後半のベスト10/オクトーバーフェスト




 夕方に見かけた、日比谷公園のビールフェスティバルがあまりに輝いていたので、午前中にラジオの収録があった時に一人でふらりと行ってきました。一人なのに楽しかった! 青空の下、一人でお酒が飲めるのは大人の特権!と思いました。次は友達を大勢連れて行きたいです。



五月後半のベスト10/Renwood オレンジマスカット



 カリフォルニア最古のブドウ種で作られているというデザート・ワイン。熟れた南国の果実のような味がする。これとマストブラザーズの苦いチョコレートのマリアージュはヘブンリー!

 コルクにもラベルと同じ小鳥がいるところが可愛い。


五月後半のベスト10/アンディ・ウォーホルのポライロイド写真


 ネットで見つけて、あまりにこの静物写真コレクションがいいので、『Andy Warhol Photography』を買ってしまったほど。静物はなかったけれど、初めて見るような面白い写真が多くて良かった。

五月後半のベスト10/A Serial Killer in Common by Robaert Kolker


(New York Mag)


 メアリー・エレン・マークによる犠牲者の家族たちの写真に惹かれて、ニューヨーク・マガジンのこの記事を読んだ。胃が冷たくなるほど怖くて悲しかった。現在、全米を賑わしているロングアイランドのシリアル・キラーの話である。サマー・オブ・サム以来の凶悪な連続殺人事件なのに、日本では全然話題になっていないところがまた怖い。

 2010年五月、娼婦のシャナン・ギルバートがロングアイランドの海岸で消えた。警察が捜索したところ、その海岸から麻布に包まれた四体の白骨死体を発見。死体は等間隔に並べられていた。全員が行方不明だった二十代の娼婦の遺体だった。

 シャナン・ギルバートの遺体はそこに含まれておらず、行方不明のままだが、一人の行方不明者と四人の犠牲者が同じ犯人と接触した可能性は極めて高い。彼女たちは年齢や背格好など共通項が多いのだ。犠牲者たちは全員、ネットに広告を載せていた。捜索の結果、死体は更に増えて十体となっている。現代の切り裂きジャックだ。

 今、最初に発見された五人の被害者の家族は結束して、この事件の真相が究明されるよう、風化させられないように動いている。というのも、犠牲者が全員娼婦であったために世間の反応が冷たく、現地の人々も事件を他人事として見ているため協力が得られず、迷宮入りの可能性があるからだ。

 ぎりぎりの生活からすぐに娼婦に堕ちてしまう若い娘たち。彼女たちが何をしている知っていながら、それを止める手だてのない家族。彼女たちがいなくなっても警察はまともに取り合ってくれない。不謹慎だけど、この事件を題材とした小説や映画が出てくるに違いないと思った。ブラック・ダリアのように。私はネットの速報ではなく、この記事で事件について知ってよかったと思う。物語として胸に刻みつけられたから。

五月後半のベスト10/希代のヒットメーカー 作曲家筒美京平

 何よりも山の手言葉を使う上品な筒美京平その人の佇まいが印象に残るドキュメントだった。

 好きな筒美作品は枚挙にいとまがないけれど、それでも今思いつくものを何曲か。

 郷ひろみ「寒い夜明け」


 南沙織「魚たちはどこへ」


少年隊「ABC」


 井上順「お世話になりました」


 飯島真理「リンゴの森の子猫たち」


 小泉今日子の「午後のヒルサイドテラス」はどこにも上がっていなかった…。

五月後半のベスト10/さよならandoan神保町店



 こんなに仕事や読書を集中して行える空間は他になかったのに。リチャード・イエーツの「Easter parade」はここで読み終わりました。

2011年6月8日水曜日

五月前半のベスト10



Graphic USA

各都市のデザイナーたちが自分の地元のお勧めスポットを紹介する、ちょっとヒップな観光案内シリーズのアメリカ編。ガイドであるのと同時に、そのページがデザイナーたちの作品になっているところがいい。昨年買った

ヨーロッパ版
は、バルセロナ刊行で大いに役に立ちました。

・洋食の朝日

くわしくは
こちら

Fabulous Old Book

神戸観光で訪れたところのひとつ。プロヴェンセンやベーメルマンスの貴重な絵本が揃っていてすごかった。そちらは手が出なかったけれど、ガールスカウト関連など可愛いグッズも沢山あって、ミーシャ・コーナを物色して色々と買ってしまった。ミーシャ・グッズに関する面白い裏話も聞けて、充実した気分で店を後にした。

・北野サーカス

素晴らしくムードのあるお店だった。フロアでタンゴを踊る店主とショートカットの女性が美しくて絵になっていた。

・イカリのホットケーキミックス

作家の柚木麻子さんにお勧めされて、神戸の高級スーパーのオリジナル商品を買う。これ、本当にふんわりとおいしく出来上がるんです。

・結婚相談

神保町シアターの芦川いづみ・司葉子の特集にて。「私、とうとう30歳になってしまった…」というナレーションで「結婚行進曲」が止まる瞬間、虚しい目をして美顔器を使う芦川いづみ。なんという残酷なオープニング。ただ結婚相談所に名前を登録してお見合いしただけなのに、コールガールにされてしまう理不尽さ、「嫁にいき遅れの三十女はどんな目に遭っても文句はいえない」と言わんばかりのホラーだった…沢村貞子が怪演。彼女も築地小劇場で散々な目に遭って、これほどまでにビターで恐ろしい人格を育ててしまったのだろう(←現実と映画を混同)。

・Nylonのヤングハリウッド号

 ものすごく先物買いで、決して逃せない号。「ANTM」のアナ・リーが女優に転身していることが分かったり、色々と有益な情報が。ロリー・カルキンのアンニュイな顔と、アンニュイなインタビューが印象に残る。クロエ・モレッツの60'sガール風のグラビアも素晴らしい出来で保存版。

・IPhone G4 ホワイト

iPhoneデビューしました。今、可愛いケースを探しています。

バホンディージョ [2009] ヒメネス・ランディ

華やかで気持ちよく酔っぱらえるスペイン・ワイン。

・Pilot Vペン

私のアイドル、Vanity Fairのウェブ版編集者ハーミッシュ・ロバートソン君が愛用していると聞いて使ってみた使い捨ての万年筆。最近、万年筆愛が薄れてきたところでしたが、やっぱり負荷が少なくて書きやすいので、持ち歩き用に使ってみることに。


・ミランダ・ジュライのThe Future 予告編

The Future 投稿者 ThePlaylist

2011年6月2日木曜日

The Brown Sisters/Nicholas Nixon


 ミランダ・ジュライのブログを読んで、私がこの写真集が大好きだったことを思い出した。

 2005年2月27日に書いた文章を再録します。




 ニコラス・ニクソンの『The Brown Sisters』は、彼が妻ビバリー(通称ベベ)とその3人の妹を撮った写真を集めたポートレイト集である。
 ブルーの布張り(現行バージョンは赤)の表紙が家族アルバムを思わせる。
 一人っ子だったニクソンは、ベベの父と母が彼女が生まれてからずっと習慣のように撮ってきた、親戚用のクリスマス・カードのための子どもたちの写真に魅せられたという。
美しい妻の妹たちが、これまたこぞって美人なのが嬉しくもあったのだろう。彼は74年から、四人姉妹が並んだポートレイト写真を毎年撮るようになる。この写真集に収録されているのは、75年から99年のものだ。
 その全ての写真を
このサイトで見ることが出来る。
 四人姉妹が並ぶ位置は決まっている。三女のローリーが左端、続いて末っ子のミミ、ニコラスの妻で長女のベベ、次女のヘザー。
 75年の時点ではベベは25才、ヘザーが23才、ローリーが21才、ミミが15才。
 撮影に使用されたのは、8×10インチの巨大なビュー・カメラ。表紙に使われた84年の写真にはニコラス・ニクソンと共にこのカメラの影が映っている。
 関根勤の両親が彼が大学に入るまで、毎年近所の写真館で改まったポートレイトを撮影していたというのは有名な話だ。
 この姉妹の写真もそれに似ていなくもないが、撮影者は姉妹にとって家族である。四人はぐっとリラックスした風情で映っている。同時にニコラス・ニクソンはアーティストだ。どの写真もポートレイトとして傑作に仕上がっている。
 ブラウン姉妹の連作は彼女たちの自然な美しさも手伝って話題となり、ニクソンの代表作として美術館の写真コーナーを飾るようになった。それでも、姉妹にとってこれはあくまでも、家族による、家族のための家族写真である。途中から意味が変わることはなかった。
個人的であることと、普遍的であること。そのふたつが直結しているこれは希有なコレクションだ。
 美しき四人姉妹は『若草物語』を連想させる。あるいは(あれは三人姉妹だが)ウディ・アレンの『インテリア』や『ハンナとその姉妹』を思い起こさせる。
 長女のベべはしっかり者、次女のヘザーは知的で、三女のローリーは穏やかな性格。ミミは末っ子らしくちょっと神経質ではにかみ屋。そんなパーソナリティが伝わってくるようだ。
 それにしても姉妹は何と似ているのだろう。特にヘザーとミミはそっくりだ。ベベだけ他の三人よりも明るい髪の色をしているが、姉妹は口元、膝の形、ある年の写真では顔にひろがるそばかすの分布まで似ているのが分かる。
年を経て、姉妹の顔は少しずつ変化していく。似てくる部分、離れていく部分。
 海辺や、庭や、室内で四人並んでポートレイトを撮るまでの合間に、この四人はどんな人生を過ごしてきたのだろう。恋や、家庭の不和や、病気、漠然とした不安や厳しい現実がそこにはあるのかもしれない。92年の写真で、当時32才のミミが妊娠していることが分かるが、ニコラス・ニクソンは写真の横に個人的なエピソードを連ねるような野暮な真似はしない。
 最後に掲載されている99年の写真の時点で、姉妹はそれぞれ54才、52才、50才、44才になっている。年齢を重ねた姉妹には、若い頃とはまた別の美しさがある。
 このコレクションが希有であるもうひとつの理由は、二十五年間、撮影をする側と被写体の関係が変わらなかったことにある。ベベとニクソンは夫婦生活を持続させ、家族の絆を失うことはなかった。この写真はそのことの証明でもある。
 ニコラス・ニクソンがいまだに、美しい妻と義理の妹たちを誇らしく思っていることが最後の写真から伝わってくる。