
絵本作家のソフィー・ブラッコールが初めて手がけた大人向けの本、『Missed Connections Love,Lost & Found』は本当に素敵な本だった。
Missed Connectionsとは、ある特定の相手と会った場所や時間、人物の特徴などを書き込んで、その人と連絡を取りたいと呼びかける掲示板である。
投稿の多くは、偶然街中で見かけて、素敵だと思っていたのに声をかけられなかった相手に向けての切ない告白だ。
君はギターを持っていた。僕はブルーの帽子をかぶっていた。
僕たちは地下鉄のホームで目が合って微笑み合った。
僕はニューヨーカーを読んでいるふりをしていたけれど、とうてい集中なんか出来なかった。
Q線が来て君は乗ってしまい、僕はB線が来るまでそこで待っていた。君のこと、素敵だって思ったんだ。
私たちは一秒で恋に落ちて、失恋する。
Missed Connectionsに溢れているのは、炭酸水の泡みたいにはかなく消えた恋の物語だ。
掲示板に書き込んだからって、相手に読んでもらえる可能性は限りなくゼロに等しい。ガラス瓶に手紙を入れて海に流したり、エンパイア・ステート・ビルディングの上から紙飛行機を飛ばすようなものだとブラッコールは言う。
ブラッコールはMissed Connectionsに取り憑かれて、気に入った投稿をイラストに起こしてブログに挙げるようになった。そのイラストを集めたのがこの本である。まるでロマンティック・コメディの冒頭だけを集めて花束にしたような、ときめきに溢れた本である。
ブラッカルがブルックリン在住のニューヨーカーなので、Missed Connectionsから拾ったエピソードも主にニューヨークのものだ。
Missed Connectionsを読んで安心するのは、ニューヨーカーたちが実はとてもシャイだということが分かる点である。地下鉄の中でブコウスキーやD.H.ロレンスを読んだりする文化系男子は、「君、可愛いね」だの「一杯おごらせてくれませんか」だの、気やすく声をかけたりしないものなのだ。地下鉄で見かけた黒いドレスの女の子にどうして声をかけなかったと自分を蹴りながら帰路についたり、隣に座っていた女の子がおならをしたのを忘れられなかったりする。ちなみにMissed Connectionsの投稿者は、七対三で男性が多いそうだ。
Missed Connectionsの投稿の中には、ずっと昔に連絡が途絶えてしまった知り合いに呼びかけるものもある。ブラッコールの本で取り上げられている69歳の男性の話はまるで、優れた短編小説のようだ。ずっと前、一緒にニューヨークの学校に勤めていた男性を捜す投稿である。
休みがとれると、二人はよく連れ立ってコニー・アイランドに行った。ある時、コニー・アイランドの水族館に妊娠中のシロイルカがやってきた。同僚は興奮して、是非とも出産を見たいと、学校が終わると毎日、彼とコニー・アイランドに行くようになった。
ある日の午後、張り紙を見て二人は悲しい結末を知った。シロイルカは死産したのだ。母イルカは回復中だったが、急に水槽のガラスに身をぶつけ始め、二人は係員の指示で水族館を出た。二人でベンチに座り、海を眺めていると涙が出てきた。泣いている彼に同僚がキスをした。それが二人が交わした最初で最後のキスだった。やがて時が流れ、連絡が取れなくなるようになって、彼は初めて自分の心に開いた穴に気がついた。
「愛しい友よ、君はこれを読んでいるだろうか? もしそうなら返事を下さい。僕は君を想っている、今までの年月ずっと、何度も君のことを思い返してきたんだ」
この本を読むと、一瞬の恋人たちがニューヨークの街角で再会する奇跡を願わずにいられない。でも、私たちは知っている。一瞬の恋は一瞬だからこそ美しいのだ。運良く相手に再会出来たとしても、思い描いていたような人物とは限らない。実際につきあってみて、憎しみ合って別れる羽目になったとしたら、美しかった一瞬の出会いのきらめきは潰えてしまうだろう。
でも、一瞬の恋にときめく人は、そもそもそんなことを考える現実主義者ではない。ブラッコールはこの本のラストのページに、とびきりの奇跡を用意している。それぞれの出会いが、この瞬間に結実していくのだと信じたくなるような。
ブラッコールのMissed Connectionsのブログは今も続行中である。最近のものだと、本の出版記念にTimeOutNew Yorkが募ったエピソードで優勝したものが私は好きだ。