2010年9月20日月曜日

ニューヨークで買った本 その1




 五月に行ったニューヨークのレポート、実は終わっていないのです。

 本と本屋について、まだ全然書いていない。

 どんな本をどんな本屋で買ったか、さわりだけでも紹介しておこうと思います。

 

 以前、ウェスト・ヴィレッジにあった12th Street Booksという古本屋さんが大好きだった。マンハッタンから撤退してしまって寂しいな、と思っていたら、同じ人がブルックリンで新しい古本屋を始めた模様。泊まっているホテルのすぐ近くだったので行ってみた。

 Atrantic Bookshopである。

 滞在したのは短い時間だったけれど、素敵な古雑誌とペーパーバックを手に入れた。


「マッド」の編集者、ハーベイ・カーツマンが60年代に主宰していた幻の雑誌「Help!」のカトゥーン傑作選とゲーム・ブック。後者の編集アシスタントには、カーツマンの押しかけ弟子であるテリー・ギリアムの名前がクレジットされている。今見てもヒップ!



 1956年の「エスクァイア」。ヘンリー・ウルフのデザインが素晴らしい。



 同じくヘンリー・ウルフがデザインを手がけたショウビズ・マガジン「Show」は今回の掘り出し物! エディトリアル・デザインに興味がある人ならば、みんな見て狂喜するような素晴らしい雑誌である。捨てページが一枚としてない。

 ヒロやイヴ・アーノルドによる写真、トミー・アンゲラーのイラスト…。一枚、一枚、全部見せたいくらい。

 


 「Show」からミルトン・クレイザーのコラージュ。こんなページばかりだ!





 1950年代の観光マガジン「Holiday」のパリ特集号。これまた、全ページを見せたいようなクオリティ。表紙の凱旋門の写真はロバート・キャパ。次号予告に「ハワイ」とあって、夢が膨らんだ。



 「マドレーヌ」シリーズでお馴染みのルドウィッヒ・ベーメルマンスのイラスト!



 1940年代の「ニューヨーカー」。古い「ニューヨーカー」誌は大量にあったので、マニアは是非とも行くべき。



 「ローリング・ストーン」誌の十周年記念号。アニー・リーボヴィッツの特集は見応えがある。



 この時点でのキャメロン・クロウの(ローリング・ストーン誌刊行以降の)ベスト10アルバム。

・スティーリー・ダン『うそつきケイティ』

・トッド・ラングレン『サムシング/エニシング』

・ジョニ・ミッチェル『バラにおくる』

・レッド・ツェッペリン『フィジカル・グラフィティ』

・オールマン・ブラザーズ・バンド『フィルモア・イースト・ライヴ』

・ジャクソン・ブラウン『ジャクソン・ブラウン・ファースト』

・スピナーズ『フィラデルフィアより愛をこめて』

・ビートルズ『ホワイト・アルバム』

・イーグルス『イーグルス・ファースト』から「テイク・イット・イージー」

・クロスビー、スティルズ、ナッシュ&ヤング『So Far』から「オハイオ」

 今聞いたら、違う答になるだろうか。


 どれも状態が良くて満足。ブルックリンで古本屋を探している方にお勧めする。

2010年9月11日土曜日

営業報告


 水曜日、三省堂書店のトークショウに来て下さった方、どうもありがとうございました。
 報告が遅れましたが、スター・チャンネルの「映画の時間」という番組の「学園ムーヴィー特集」にちょこっと出演しました。私自身はこのチャンネルに入っていないので、放映は見ていないのですが。
本日発売の「SPUR」の妹雑誌、「SPUR Pink」に乙女な文庫本を紹介しています。
 「FRaU」と「本の雑誌」の連載で紹介した本は以下の通り。
 
『フォーチュン氏の楽園』シルビア・タウンゼンド・ウォーナー
 
『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ
 
『奪い尽くされ、焼き尽くされ』ウェルズ・タワー
 
『メイスン&ディクスン』トマス・ピンチョン
 
『ふがいない僕は空を見た』窪美澄
 
『北欧のテキスタイル』ギセラ・エロン
 
『乙女の密告』赤染晶子
 
『だから、ひとりだけって言ったのに』クレール・カスティヨン

リマインダー。
九月二十六日は大阪の朝日カルチャーセンター中之島教室で「あの女(ひと)の生き方に学ぶ」という講座をやります。時間は13時から14時半。ネットでも受付中です。

2010年9月5日日曜日

プレッピーの必読リスト



 現在、
『True Prep』を夢中になって読んでいる。
 ここでも書いたが、30年前に出た『オフィシャル・プレッピー・ブック』のアップデイト版である。
 30年で「プレップ」という概念の幅は随分広がった。というか、崩れた。前はWASPか、最低でも白人でヘテロセクシャルであることがプレップの条件だったが、今は「アイビー・リーグ(またはそれに準する名門大学)を出たお金持ちで/ある種の文化圏にいる人々」の人種・生態は様々である。
 アフリカン・アメリカン、ユダヤ人、移民の二世や三世、更には養子で上流階級の家庭に入った各国の子供たち。
 プレップの文化もそれによってカラフルになったが、やっぱり独特のこだわり/伝統があることには間違いがない。
 新プレッピー人物図鑑にはもちろん、オバマ夫妻も登場する。ジョナサン・アドラーやティナ・バーニー、ステファン・コルベルトといった顔ぶれも。興味深い。発見が山ほどある。
 「『ゴシップ・ガール』にもの申す」的なコーナーもある。確かにあのドラマの登場人物たち、ライフスタイルはともかく常に最新ファッションを着ている時点であんまりプレッピー的ではないのだ。
 今回は「アフリカン・アメリカンのプレップたちのリゾート」「ゲイのプレップたちの社交場」なんて項目もあって、面白い。「ゲイのプレップ」のアイコンはデヴィッド・ハイド・ピアーズである。
 とにかく盛りだくさんで、まだ読み切れていないのだけど、「プレップの必読リスト」という項目があって勉強になったので、リストに上がっているものの中で邦訳があるものを下記に書き出してみた(オリジナル版から一部収録されている書籍も含む)。
 プレップたちが読むべき本、というよりも、「アメリカのお金持ちの経済の成り立ち、歴史、文化、風俗」を知りたい人たちのためのリストといった感じで、WASP文化のオリジンとなったイギリス上流階級を描いた本も含まれている。
 『True Prep』はあくまでユーモア・ブックではあるが、アメリカのある種の文化を知るのには大変に勉強になるチャーミングな本である。冗談めかして書いてあるから、距離感があって心地いい。
 しかしこのままいくと、『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』を真に受けた30年前のアイビー・ファッション愛好者みたいに、vineyard vinesあたりのコンサバなポロシャツ着そうな自分が恐い…
 上の画像は、やはり必読リストに入っているスリム・アーロンズの写真集。私も持っています。オリジナルはケイト・スペードなどのデザイナーがソースとして使っていたので有名。上流階級とセレブのリゾート・スタイルが楽しめます。

ノンフィクション・伝記
アメリカの上流階級はこうして作られる_オールド・マネーの肖像/ネルソン・W・アルドリッチ
WASPの流儀_ルイス・オーキンクロス名作集/ルイス・オーキンクロス
アメリカ新上流階級 ボボズ_ニューリッチたちの優雅な生き方
モルガン家 金融帝国の盛衰
〈上〉〈下〉/ロン・チャーナウ
ベツレヘムに向け、身を屈めて60年代の過ぎた朝/ジョーン・ディディオン
ジェーン・フォンダ わが半生
〈上〉〈下〉/ジェーン・フォンダ
階級(クラス)_「平等社会」アメリカのタブー/ポール・ファッセル
優雅な生活が最高の復讐である/カルヴィン・トムキンズ
キャサリン・グラハム わが人生/キャサリン・グラハム
レストレス・ヴァージンズ/アビゲイル・ジョーンズ&マリサ・マイリー
マイ・ドリーム_バラク・オバマ自伝/バラク・オバマ
驚くべき天才の胸もはりさけんばかりの奮闘記/デイヴ・エガーズ
ああ、なんて素晴らしい!
/ショーン・ウィルシー

小説
イーディス・ウォートンの「イーサン・フロム」以外の全著作
スコット・フィッツジェラルドの全著作
移動祝祭日/アーネスト・ヘミングウェイ
ワップショット家の醜聞/ジョン・チーヴァー
メイプル夫妻の物語&カップルズ〈1〉〈2〉/ジョン・アップダイク
レボリューショナリー・ロード/リチャード・イエーツ
さようなら、コロンバス/フィリップ・ロス
ナイン・ストーリーズ/J・D・サリンジャー
グループ/メアリイ・マッカーシー
アーロン・バアの英雄的生涯/ゴア・ヴィダール
ラブ・ストーリー_ある愛の詩/エリック・シーガル
ブラッド・オレンジ/ジョン・ホークス
ガープの世界
〈上〉〈下〉/ジョン・アーヴィング
いつか眠りにつく前に/スーザン・マイノット
ある少年の物語/エドマンド・ホワイト
アイス・ストーム/リック・ムーディ
ミドルセックス/ジェフリー・ユージニデス
ウィロビー・チェースのおおかみ/ジョーン・エイケン
小公子/フランシス・ホジソン・バーネット
クローディアの秘密/E.L.カニグズバーグ
大いなる遺産
〈上〉〈下〉&オリバー・ツイスト〈上〉〈下〉&荒涼館〈1〉〈2〉〈3〉〈4〉/チャールズ・ディケンズ
デイジー・ミラー&ある婦人の肖像〈上〉〈中〉〈下〉/ヘンリー・ジェイムズ
サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇/オスカー・ワイルド
キス・キスすばらしき父さん狐/ロアルド・ダール
ブライヅヘッドふたたび/イーヴリン・ウォー
イーフレイムの書/ジェイムズ・メリル

考えてみれば、前のエントリで上げたガルト・ニーダーホッファーの小説もプレップ的である。ニーダーホッファーはショパン・スクールからハーバードという秀才のお嬢さまだし、『The Romantics』はマイノットの『いつか眠りにつく前に』にプロット的に似ているところがある。

2010年9月2日木曜日

バーナクル家の娘たち


 ドリュー・バリモアとジャスティン・ロング、噂のカップルが主演するラブコメ『遠距離恋愛』をこの間見てきました。
 監督はジョン・ヒューズ映画そのもの!なアメリカの高校生たちのドキュメント『アメリカン・ティーン』で有名なナネット・バーンスタイン。これが初の劇映画になります。(『アメリカン・ティーン』も相当「ドラマ」でしたが)
 映画自体も色々と興味深かったのですが、調べていて気になったのがバーンスタイン監督の次回作。
 何と、『A TAXONOMY OF BARNACLES』というタイトルが! この企画、まだ生きていたんだ。
 『A TAXONOMY OF BARNACLES』は四年ほど前に読んで、とても面白かったガルト・ニーダーホッファーの小説です。その時の感想を再アップしておきます。




 ニューヨークはアッパー・イーストのゴージャスなアパートメントに、6人の姉妹が住んでおりました。
 6人とも器量よしで、足が速く、スタイルがよくてお利口さん。
 長女のベル(29)はあらゆることに秀でた雑学王
 次女のブリジット(25)は一番美しく、女優体質
 三女のベス(19)は自然科学の分野で才能を発揮する学者肌
 四女のベリンダ(16)はどんな古着もファッショナブルに着こなすスタイリスト
 五女のベリル(13)は絶対音感の持ち主で、ピアノと絵画の天才
 六女のベニータ(10)は運動神経抜群のアスリート

 しかし実態はというと
 長女のベルはハーバードを中退し、仕事にも失敗したショックでお酒を飲んで見知らぬ男たちと関係を結んだせいで、誰が父親か分からない子どもを妊娠中
 次女のブリジットは、ボヘミアンに憧れて作家志望のトロットと同棲するも、彼はサッパリ芽が出そうにない
 三女のベスはセントラル・パークで捕らえた小動物を勝手に解剖しようとする変人で、その交友関係は姉妹から「あらゆるおたくの見本市」と呼ばれる生粋のギーク
 四女のベリンダは素行不良で寄宿舎学校に放り込まれたヒステリックなコギャル
 五女のベリルは自分が予知能力があると主張する不思議ちゃん
 六女のベニータは教師も手を焼く競争心の固まりで、それ故学校に友達がないこまっしゃくれたガキんちょ

 娘たちが変わり者なのも無理もありません。
 6人の父親、パンティストッキング業界で地位を築き、ブルックリンの下町からここまで辿り着いた立身出世の人、バリーはエキセントリックを絵に描いたような人物なのですから。
 ダーウィンの進化論に取り憑かれた彼は、広いアパートメントに水族館ばりの魚のコレクションとミニ・ジャングル規模のサンルームを設置し、あらゆる生き物を飼っておりました。
「競争心は種の進化につながる」と信じ、娘たちには個室を与えず、二人部屋に押し込めました。
 アパートの中には更に音楽室、貝のコレクションの展示室、ベリルが描いた家族それぞれの肖像と死んだものを踏む歴代ペットを描いた絵を展示する絵画室などがあり、バリーと姉妹の義母バニーのベッドルームから上階にかけて、メトロポリタン美術館のものを模したひどくゴージャスな螺旋階段が伸びておりました。
 バリーと離婚して上階に住む6人の母、ベラの設えたものです。
 バリーがエキセントリックなら、ベラは天然。上階の部屋は永遠に終わることのないリフォームの真っ最中で、何かというと物がなくなります。
 ベラは離婚直前、ブロンクスの孤児院で黒人の少年を貰い、勝手に養子にしていました。
 そんな訳で姉妹には、血の繋がらない弟、ラトレルがおりました。
 ラトレルは「あなたのお父さんはピアニストだった」というベラの言葉だけを頼りに、ニューヨーク中のピアノ・バーやコンサート・ホールを訪ねてまわり、家出癖で家族を悩ませていました。
 そんな変わり者のユダヤ人一家のお隣、ワスプのフィンチ家には双子の息子がおりました。
 同じ金髪、同じルックス、同じ運動神経を持ち、同じ服装を好み、テレパシーで交信し、全ての行動がシンクロするこの双子、ブレインとビルを見分ける方法はただひとつ、それぞれが熱狂的なファンであるニューヨーク・ヤンキーズとレッド・ソックスの野球帽だけでした。
 まだティーンエイジャーの頃、深夜にバーナクル家の長女と次女の部屋に忍び込み、ブレインとビルはそれぞれ、自分のアイデンティティーともいえる帽子を指輪代わりに差し出してベルとブリジットにプロポーズしたことがあります。
 ベルはすぐにブレインに手ひどくふられて、自棄のやんぱちのような男性遍歴を重ねるようになり、
 ブリジットに拒まれながらもあきらめきれないビリーはストーカーのように彼女を追い続け、
 この初恋は四人の現在に暗い影を落としていました。
 そして、離婚と破産で実家に戻ってきたブレインとビリーが久しぶりにバーナクル家にやってきた「過ぎこしの祭り」の日。フィンチ家の双子と、ブリジットのボーイフレンド・トロット、養子のラトレルに新旧二人の妻、そして6人の娘たちを目の前にしてバリーはとんでもないことを言い出します。
「昔は家督っていうのは長男が受け継ぎ、娘たちは財産なしで結婚に頼らなければいけないものだった。あれはいいシステムだった、財産が分散せずに済んだのだから。そんな訳でわしも家督をたった一人の実子に残すことにした。これから一週間、何らかの形でバーナクル家の名を不滅にするような偉業を成し遂げた者にのみ、バーナクルの名字と遺産を受け渡すことにする!」
 ああ、バーナクルの娘たちの運命はいかに!
 今年のはじめ、文芸界で大変に評判が良かったガルト・ニーダーホッファーの小説デビュー作。
 シェークスピアのリア王とジェイン・オースティン、そして若草物語を下敷きにした「誰も死なない『バージン・スーサイズ』」っていうか、「ガーリーな『ザ・ロイヤル・テネンバウムス』」っていうか。
 いやいや、姉妹のキャラが立ってて、大変に楽しかったです。
 食卓での気まずい会話とか、トロットがいるのに無視して姉妹同士で「どういうプロポーズがキモいか」とえんえん論議するシーンとか、本当にうまい。
 それもそのはず、ニーダーホッファーは彼女自身がニューヨークで伝説的なマネー・トレーダーの父を持つ、6人姉妹の長女なのですから!
 ちなみに彼女は自らのプロダクションを切り盛りするインディ映画界の重要人物であり、スティーブ・ブシェミの監督作『Lonesome Jim』や、この間書いたThe Stateのメンバー、マイケル・ショウウォーターの『The Baxter』等を手がけています。
 実質、仕事をしていないフィンチ家の双子が職業を聞かれると「インディ映画を制作している」って言うのも、彼女自身のキャリアを投影したものかもしれません。
 ていうか、この双子、そして小説そのものがホイット・スティルマンを思わせてならないんですけど。
 『トゥエルブ』のニック・マクダネルといい、やっぱりアッパー・イーストのインサイダーってこういう感じなんだ! 優雅な倦怠を匂わせながらおとぎ話みたいな神話世界に暮らす人々。
 でも、それぞれが父親と上手くいっていない娘たちのあり方はヒリリと痛く、大変に身につまされるところがありました。
 いくつもの謎が明かされ、混乱に満ちた状況のままではありつつも、大団円を迎えるラストがヤンキーズ対レッドソックスのオープニング・ゲームが催されるスタジアムだというのも憎い。
 そしてラトレルが家出しては通っているベーメルマンズ・バー、この次にニューヨークに行くときはかならず立ち寄ろうと決めました。名前で分かるとおり、あの『マドレーヌ』のルドウィッヒ・べーメルマンスが壁画を手がけているピアノ・バーなのです。
 セントラル・パーク動物園、コーナー・ビストロ、マグノリア・ベーカリーと私も行ったところが次々出てくるニューヨークの大変に洒落た、そしてやっぱり痛々しい寓話。
 どこかの出版社が翻訳を出してくれると大変に嬉しいのですが。
 だって読みたい人、きっといるでしょう?

 これを書いてからけっこう時間が経過してしまいましたが、映画化されるとなれば翻訳されるチャンスもあるかも! と期待を込めて。
 ニーダーホッファーはその後、小説第二作目の
『The Romantics』を上梓。これは処女作よりも一足先にニーダーホッファー自身によって映画化されて、本国では今年公開です。

『The Romantics』予告編


『The Romantics』キャスト×J Crewの素敵なコラボ